1. MIRAIGA通信
 

MIRAIGA通信

2026/03/30

令和8年(2026年)4月より、在職老齢年金制度の基準額が見直され、高齢者の就労に大きな影響を与える改正が施行されます。本制度は、厚生年金に加入しながら働く高齢者について、賃金と老齢厚生年金の合計額が一定額を超えた場合に、年金の一部または全部を支給停止する仕組みです。

 

今回の改正では、この支給停止の基準となる金額(賃金+老齢厚生年金)が、従来の月額51万円から月額65万円へと大幅に引き上げられます(令和8年度)。なお、この基準額は賃金動向に応じて毎年度見直される仕組みとなっています。

 

対象となるのはあくまで老齢厚生年金であり、老齢基礎年金については減額の対象とはなりません。また、支給停止額は月単位で計算され、基準額を超えた部分の2分の1が年金から減額されます。改正後の計算方法は、賃金と年金の合計が65万円以下であれば全額支給、65万円を超える場合には「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2」により算出されます。

 

この見直しにより、一定以上の収入があっても年金が減額されにくくなり、「働くと年金が減る」という意識による働き控えの解消が期待されています。特に60代後半以降の就労意欲は高く、企業にとっても経験豊富な人材を活用する好機となるでしょう。

 

一方で、制度の理解不足による誤解には注意が必要です。従業員への説明にあたっては、いくつかのポイントを押さえることが重要です。

 

まず、基準額が65万円に引き上げられたことで、従来よりも働き方の自由度が高まる点を明確に伝える必要があります。収入増加に対する過度な不安を和らげることで、就労継続の後押しにつながります。

 

次に、減額の対象はあくまで年金であり、給与そのものが減るわけではないことを丁寧に説明することが重要です。この点は誤解が生じやすく、説明不足が不安や不信感につながる可能性があります。

 

さらに、具体的な年金受給額は個々の報酬や加入履歴によって異なるため、個別試算の活用を促すことも有効です。日本年金機構が提供する ねんきんネット を利用すれば、将来の年金見込額や支給停止の影響を簡単に確認することができます。

 

今回の改正は、高齢者の就労促進と人手不足への対応を目的とした重要な制度変更です。企業としては、単なる制度説明にとどまらず、賃金設計や勤務形態の見直しなども含め、高齢従業員が安心して能力を発揮できる環境整備が求められます。

 

本改正を契機に、シニア人材の活躍をより一層推進し、組織全体の活力向上につなげていくことが期待されます。


2026/03/05

改正労働安全衛生法が2026年4月に施行され、「高年齢労働者の労働災害防止」と「個人事業主等(いわゆる一人親方・フリーランス)に対する安全確保措置」が強化されます。いずれも“形式的対応”ではなく、具体的リスク低減措置が求められる点が特徴です。

 

1.高年齢労働者(主に65歳以上)への労災防止対策の強化

少子高齢化の進行により、高年齢労働者の就業は常態化しています。特に増加しているのが「転倒災害」「腰痛等の動作起因災害」です。改正の趣旨は、年齢特性を踏まえた安全配慮を明確に企業責任として位置づける点にあります。実務上求められるポイントは以下の通りです。

・年齢特性を考慮したリスクアセスメントの実施

・作業内容・配置の見直し(重量物取扱い、長時間立位作業など)

・手すり設置、段差解消、滑り止め等の設備改善

・体力・健康状態を踏まえた就労管理

・再雇用者も含めた安全衛生教育の実施

単に「注意するよう指導した」という対応では足りず、設備面・作業方法面での具体的改善が重要です。監督署対応では、「高齢者がいることを前提にリスク評価を行っているか」が確認ポイントになります。

 

2.個人事業主等に対する安全確保措置の明確化

近年の改正により、労働者だけでなく、同じ作業現場で働く個人事業主等に対しても安全確保措置を講ずる必要性が強化されています。建設業や製造業など、混在作業現場では特に重要です。主な対応内容は以下の通りです。

・危険情報の提供義務

・危険箇所への立入制限措置

・保護具の使用に関する周知

・作業手順・リスク情報の共有

・混在作業時の連絡体制整備

「雇用していないから関係ない」という整理はできません。元請企業や作業場を管理する事業者には、現場全体の安全配慮義務が及びます。

 

今回の改正は、新しい制度創設というよりも、安全配慮義務の射程を広げ、実効性を高める改定です。特に注意すべき点は以下の通りです。

 

・高年齢者を前提とした安全設計ができているか

・個人事業主を含めた現場リスク管理体制が整備されているか

・安全衛生委員会で具体的議論がなされているか

・改善履歴を記録として残しているか

今回の改定の本質は、「誰が雇用関係にあるか」ではなく、「同じ現場で働く人の安全をどう確保するか」という視点への転換です。高年齢労働者の増加と働き方の多様化を前提に、安全管理を“人に合わせる”設計へ進化させることが、今後の企業の重要課題となります。